所有している不動産を、自らの意志に従って確実に子や配偶者に引き継ぐため、生前贈与を検討される方が多くいらっしゃいます。

不動産を生前贈与するにあたっては、贈与税について事前に検討することが大切です。たとえば、贈与する財産の価額が500万円の場合の贈与税は52万円、1000万円ならば231万円もかかります(暦年課税の場合)。

そこで、婚姻期間が20年以上の夫婦間での贈与であれば、夫婦間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除の適用が受けられるかをまず検討することになるでしょう。

また、65歳以上の親から、20歳以上の子へ贈与をする際には、上記の暦年課税による計算と、相続時精算課税とを選択することができます。

暦年課税では基礎控除額が110万円なのに比べ、相続時精算課税では基礎控除額が2500万円と大きいのが特徴です(暦年課税による計算については、国税庁による贈与税の計算と税率(暦年課税)をご覧ください)。

相続時精算課税の選択

1.相続時精算課税での贈与税額の計算

相続時精算課税を選択した場合、その年に贈与を受けた財産の合計額から2,500万円を控除した額の20%が贈与税額となります。したがって、贈与財産の合計額が2,500万円までであれば贈与税はかかりません。

相続時精算課税が適用される贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありませんが、特別控除額の2,500万円は生涯を通じて贈与を受けた全ての財産についての合計額です。つまり、今年に1,500万円の贈与を受け、来年には1,000万円の贈与を受けたとすれば、それ以上の控除を受けることはできません。

2.相続時精算課税での相続税額の計算

相続時精算課税では、贈与者について相続が開始したときに、生前贈与している財産と、相続財産の価額との合計金額により計算した相続税額から、すでに納めた贈与税相当額を控除することによって相続税額を計算します。

したがって、相続税がかかる場合には、相続時精算課税を選択して生前贈与を受けても、相続により遺産を引き継いだとしても、最終的に納めるべき税額(贈与税と相続税の合計)は同じになると考えられますが、次の点について注意する必要があります。

3.相続税対策にはならない

相続時精算課税では、贈与財産と相続財産を通算して相続税を計算するものであり、納める税金の合計額が変わるものではありませんから、相続税対策にはなりません。

そこで、相続税がかかる場合には、暦年課税による110万円の基礎控除を利用し、複数年に渡って贈与を行うことで相続税額を抑えることも考えられます。

暦年課税による贈与の場合、相続税の課税対象となるのは相続開始前3年以内のものだけですから、相続財産そのものを減らせることになるからです。

4.財産評価の時期が異なる

相続時精算課税の場合、相続税を計算する際の贈与財産の価額は贈与時の価額とされています。そのため、生前贈与をした後にその財産の価額が下落した場合、相続時精算課税を選択したことによって支払うべき相続税額が増えてしまう場合もあります。

5.相続時精算課税を選択するべきか

相続税がかかる場合であって、相続時精算課税を選んだ方が得になるのは、「贈与財産の将来価値が大幅に上昇すると見込まれる」などのケースに限定されるでしょう。

近い将来に地価が上昇していく地域はごく限られるでしょうから、評価額の上昇を見込んで相続時精算課税を選択することはあまり無いと考えられます。

一方、相続税がかからない場合には、生前贈与財産の合計額が2,500万円までであれば、相続時精算課税を利用することによるデメリットは無いことになります。

ただ、近い将来に相続税の税制が改正され基礎控除額が減ることで、現行の税制では相続税がかからなかった方についても、課税されることになるかもしれません。

そうであれば、暦年課税により少しずつ贈与しておいた方が、結果として有利だったということにもなりかねません。一旦、相続時精算課税を選択してしまうと、後になって暦年課税に戻すことはできないので慎重な判断が必要です。

「不動産生前贈与」の関連情報

不動産贈与登記(千葉県松戸市の高島司法書士事務所ホームページ)